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山形発の映画「よみがえりのレシピ」を観てきました

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山形を舞台にしたドキュメンタリー映画「よみがえりのレシピ」を観てきました。
http://y-recipe.net/

山形在来のかぶ3種

山形に古くから伝わる在来の種を守り継いできた人々の想いと現在を市民の手で撮影したドキュメンタリーで、とても温かい気持ちになれる映画です。口コミでゆっくりと自主上映の輪が全国に広がっているとのこと。私も近所で開かれた自主上映会で鑑賞させてもらいました。

■山形でしか味わえない個性的な野菜たち

皮が薄くて瑞々しくさわやかな苦みが特徴の外内島(とのじま)きゅうり、各家庭で自慢の茹で方がある白山だだ茶豆、絶滅したと思われていた宝谷(ほうや)かぶ、根はメロンほどの糖度がある赤根ほうれんそう、「冷害で寒くても干ばつでも残る」と言われ、人々を飢饉から守ってきた甚五右ェ門芋(じんごうえもんいも)などなど、色も形も味も個性的な野菜たちがたくさん登場します。風土に合わせて進化するのが在来品種の特徴。これらの個性的な野菜は、山形でしか育むことのできない味なのです。

大量消費、大量生産に合わせ、もっと早く、もっと効率的に、もっとたくさん、そんな方向で突き進んできた食の市場では、成長が早く、姿かたちが均一で、長距離輸送に耐える品種が求められ、その要求に合うように交配されたF1品種(一代限りの雑種で種採りができない※)が店に並ぶ野菜のほとんどを占めるようになりました。

ゆっくりと成長して個性的な在来品種はその逆で、次々と姿を消してきています。それでも、「ここにしかないものだから、大切なものだから」と種を採り続けてきた高齢の農家の人々がいました。映画では、そんな農家の人々と在来品種の研究者、在来野菜の個性に寄り添う料理人、在来野菜を食べることで応援する人々とがつながって、山形ならではの食と文化を語り合い、在来品種を次の世代へ繋げていく様子が描かれていました。

■種から種までを見届ける

山形の一部の小学校では、在来品種を栽培する授業があり、地元の農家の人々が子どもたちに種まきから、育苗、手入れ、収穫、種採りまでを教えているそうです。子どもたちが収穫した野菜を食べる様子は喜びに満ちていて、「苦いけどあまーい」「すっごいきゅうりのにおいするー」と反応も素直でとってもかわいかったです。

子どもたちは「種から種まで」を見届けることで、命の営みを学び、「食べ物は命なんだ」ということを体験を通じて知るのだそう。おばあちゃんが白山だだちゃ豆の種採りをするそばで遊んでいた孫が、「ばーば、大事なもの、落ちてたよ」と、学校帰りに道端で種を拾ってきたというエピソードには、私も将来子どもや孫ができたら、いっしょに在来種の種採りがしたいなぁと思いました。

■農業と地域の再生にも―在来作物が秘める可能性

登場する農家は高齢でがんばっている方が多く、後継者不足が心配でした。子の世代では、農家では食べていかれない、都会に出て月給とりになる、と後を継がなかったという話も出てきました。

孫の世代で後を継ぎ、おじいちゃんとおばあちゃんといっしょに甚五右ェ門芋を育てている佐藤春樹さんは映画のなかで「農業は自分も幸せになれるし、だれかを幸せにできる仕事」と語ります。人と作物の命を支えあいを担っているのが農業。身体と健康をつくっている食べ物を守り育てる農家の人々がもっと誇りを持てるようにできないだろうかと思いました。

それに大きく貢献しているのが山形イタリアン「アル・ケッチャーノ」の奥田シェフです。在来野菜の個性に寄り添い、昔ながらの作物に現代の人たちが価値を見出す新しい料理を提案しつづけています。

「そこにしかないものが、そこにしかない命が食べられる、それが複数あると、全国から人を呼べる」という言葉に、在来品種には地域を再び輝かせる力もあるんだと思いました。奥田シェフも中心となって関わっている「宝谷蕪主の会」(出資すると収穫した蕪の一部を配当として得られる)には、北海道、仙台、京都など全国からたくさんの人が集まり、アル・ケッチャーノで宝谷かぶの料理を囲みながら収穫を祝っていました。

■失われてからでは遅すぎる

山形で失われた品種はここ10年間で30品目以上。在来野菜の色彩、香り、味わい、食感、そして昔ながらの野菜が栽培されている風景、こうした地域ならではの感性は、いったん失われてしまえば、取り戻すことができません。

在来品種に含まれる成分は、あまり知られていないものの、発がんを抑制する成分など健康に恩恵をもたらすものもたくさんあるそうです。こんなに人のためになってくれる野菜たちを絶やしてしまうなんて、私たちはなんて罰当たりなんだろうと思いました。

■来場者とのトークセッションで

鑑賞後には、渡辺智史監督と映画に登場する農家の佐藤春樹さんが来てくださり、来場者とのトークセッションが設けられました。来場者からは「生き物の場合には絶滅危惧種を守ろうとレッドリストが作られていますが、栽培作物に関してはないのでしょうか?」という質問も出ました。残念ながら、そうした取り組みは在来品種にはないそうです。

来場者からはほかにも、遺伝子組み換え作物がいつのまにか認可されはじめていることへの危惧やそれによって自家採種ができなくなるという懸念の声も聞かれました。食の影の部分に警鐘を鳴らすものではなく、あくまでも在来作物の素晴らしさを伝える爽やかな映画でしたが、食について不安に思っていることを話し合う良い機会にもなりました。

■在来作物を守りたい

ここにしかないものだから。ずっと受け継がれてきたものだから。大事なものだから。食べたいな、と待っていてくれる人がいるから。食べて喜んでくれる家族がいるから。そんな純粋な気持ちで種を守ってきたおじいちゃん、おばあちゃん。

その姿を見て後に続く若者たち、学術的な立場から応援する大学の先生、料理で在来作物の魅力を最大限に引き出して全国に発信するシェフ、そしてその味に集うお客さんたち。

在来作物を愛おしむ人々の姿を市民プロデューサーの方々が映像に収め、渡辺監督がひとつの作品という形にして、山形から世界に紹介しました。在来品種を残したいという想いをひとつに、それぞれの立場で、それぞれ得意なことで、背伸びをせずに活動を続けている姿がとても素敵でした。

*じわじわと全国に上映会が広がっているそうです。上映情報と自主上映会の実施方法などの詳細については、こちらでご確認いただけます。
http://y-recipe.net/theater_information/

※F1品種:種が採れるものもありますが、栽培しても親と同じ形質にはならないので、種を種苗業者から買い続けなければなりません。育種はほぼ外国で行われています。雄性不稔性(雄しべができない突然変異。男性側の不妊症のようなもの)を利用して交配した品種は種ができません。
(参考文献:「タネが危ない」野口勲著/日本経済新聞出版社 /2011年9月刊行 )

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